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| 稲波院長ラジオ講演紹介 |
| 以下の微小内視鏡下腰椎椎間板切除術(MED)に関する説明は、当院の稲波院長が平成15年7月10日、日本医師会の「ラジオたんぱ医学講座」で講演した内容です。医師向けのものですのでやや難しいところがあるかもしれません。 |
| 内視鏡による腰椎椎間板ヘルニアの治療 |
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微小内視鏡下腰椎椎間板切除術 (以下MEDと略します。)は、1995年にアメリカでFoley,とSmithによって開発された手術方法であります。
従来の手術方法に比べて 皮膚切開が約1/5であること。術後疼痛の軽いこと。入院期間が短いこと。早期に社会生活に復帰できる。など数々の利点を持った手術方法であります。本日はこのMED法に関して、
の順でお話させて頂きます。 |
| 1. 従来法との相違点 |
| まず皮膚切開が大幅に短いことが挙げられます。従来の術式ですと、皮膚切開は約8cm程度でありましたが、MEDでは16mmと約1/5であります。 次の相違点は、筋肉を剥離する範囲であります。従来法では罹患椎間板をはさむ上下の棘突起並びに椎弓から傍脊柱筋を剥離しておりました。しかしMED法では椎弓の一部分からだけ傍脊柱筋を剥離致します。脊椎の手術では、内包されている神経の除圧に加えて、脊柱の支持組織としての機能を温存することが必要であります。支持組織としての腰椎は骨・靭帯・椎間板の集合としての脊柱とそれを支える筋肉組織から成立っております。そこで骨組織への筋組織付着部の剥離が少なくてすむMEDは従来法に比べて 支持組織としての脊柱の機能を損なうことが少ない点で優れています。 また従来法では大きく剥離した視野をテーラー鉤やレトラクターで確保しておりました。しかしMEDでは直径わずか16mmの円筒状レトラクターを用いるだけで済みます。確保する空間の量 に比例して周囲の傍脊柱筋に対する圧迫・阻血などの侵襲は増加すると考えられますので、MEDでの脊柱周囲組織への侵襲性の低さが予想されます。実際、生体に与える侵襲の指標として、出沢らは手術後24時間でのインターロイキン6を計測し、椎弓切除群では、平均120±39pgであったものが、MED群では平均17±2pgと1/7以下であったと報告しています。 視野に関しては、従来法では肉眼で手術を行います。一方MED法では円筒状レトラクターの内部に直径約2mmの細い内視鏡を挿入し、モニター画面 を見ながら操作を行います。2次元の画面からの情報でありますので、立体感覚は得られませんが、明るく拡大された視野のもとで手術を行うことができます。 |
| 2. 有効性 |
| 手術創が8cm程度から その 1/5 の16mmになったということは重要なことではありますが、それにも増して患者さんにとっての福音は、術後の疼痛の少なさであります。従来法で手術を受け、再発し、当院でMED法を受けた患者さんのほとんどが、術後の痛みが前回の手術に比べて非常に少なかったと話されています。
また患者さんは手術翌日から自力歩行が可能であります。中には手術当日 自力歩行した患者さんもいますが、米国では日帰り手術で行われていることを考えれば驚くに値しないことであります。 入院期間に関しては、従来法での当院での入院期間が3週間程度であったものが、MEDでは約1週間になりました。これは症例に応じてより短縮できると考えております。 就業に関しても、退院後1-2 週間で軽作業の職場復帰ができているようであります。これには、傍脊柱筋に対する低侵襲性が大いに影響していると思われます。 手術後1年で、MRIによって傍脊柱筋を比較しますと、従来法では術後1年でも、傍脊柱筋は剥離した多くの範囲で復元していないのに比べて、MED群ではほぼ全域で再生復元していることが観察されております。 |
| 3. 有効率・合併症・再発率など |
| 有効率:すなわち日本整形外科学会の腰痛疾患治療成績判定基準で改善率50%以上を示した有効例の割合は90%以上で、従来法とほぼ同様か、やや良好であります。 合併症としては硬膜損傷の頻度が従来法に比べてやや高い傾向があります。視野が狭いこと、立体覚のなさに起因すると考えられますが、縫合・修復することにより問題は生じておりません。その他の合併症ではMEDに特別 なものはございません。 また再発率は従来法での再発率とほぼ同様であります。 |
| 4. 手術の注意点 |
| 術者は、明るい拡大された視野で操作ができますので、より精密な手術が可能になります。そのため、出血量
の平均は10数mlであります。 一方、モニター画面からは立体覚の情報が得られませんので、操作には習熟を要します。また他の内視鏡手術一般 と同様に、視覚―手指の運動協調が必要であります。術野は狭いので、十分に円筒状レトラクターや内視鏡を動かし、手術機器を適切に用いて遊離ヘルニアの取り残しの無い様、慎重に操作を行う必要があります。 |
| 5. 適応患者の病態 |
| 明らかな坐骨神経痛があり、仙骨硬膜外ブロックや腰部硬膜外ブロック 神経根ブロックなどを行っても効果
が不十分である患者さんが良い適応であります。しかし椎間板ヘルニアは自然治癒が見込まれる疾患ですので最低1ヶ月間は経過観察を行うべきであると考えます。 椎間板ヘルニアの痛みの機序は良く解っているわけではありませんが、興味深い実験があります。それは、手術の際に、椎間板ヘルニアのあった神経根の場所に小さな風船を入れておき、麻酔から覚めた後に膨らませると、手術まえと同様な痛みを起こします。しかしヘルニアのなかった神経根の場所に挿入した風船を膨らませても、患者さんはしびれや重だるさを感じますが、痛みは起こらなかったという結果 です。つまり単なる圧迫では、痛みは起こらないわけで、炎症が大きく関与していることが予測されています。そこで1ヶ月間という短期間ではヘルニア組織は吸収されずとも、局所の炎症が収まれば疼痛という症状の重要な部分が軽減する可能性があるからであります。また突出したヘルニアもある程度の期間の後には吸収されることが知られております。 経過観察の例外は、膀胱直腸障害や筋力低下が生じている例であります。これらの場合には可及的早期に手術を行う必要があります。中でも膀胱直腸障害は社会生活に与える影響が非常に強く、回復も困難であります。 注意しなければならないのは、仙腸関節症で、この場合には坐骨神経痛と同様の症状を呈することがあります。 またMRIで椎間板の膨隆所見があり、腰痛はあっても、坐骨神経痛のないような症例では、腰痛の発現機序が不安定性によるものであったり、椎間板変性、椎間関節症などによる場合が少なくありません。このような症例で安易に椎間板切除術を行うと、症状は良くならず悲惨な結果 を招くことになります。 反対に強い坐骨神経痛があり、脊柱管内にはヘルニアが無く、仙腸関節にも問題がないような場合には外側ヘルニアを疑います。MRIで椎間板高位 を1枚しか撮影していない場合には、外側ヘルニアが撮影されていない場合があります。 |
| 6. 通常のヘルニア以外の適応疾患 |
| 外側ヘルニア
外側ヘルニアはMRIによってより的確に診断されます。一般的な脊柱管内のヘルニアに比べて疼痛が強度である傾向があります。ヘルニアが脊柱管内にないために、時には見逃されることがあります。外側ヘルニアの定義は様々ですが、特に椎間孔外の狭義の外側ヘルニアはMEDの非常に良い適応であります。侵襲は少なく、手術時間も短く、従来法よりも殆どの点で優れています。外側ヘルニアに対するMED実施上の注意は、脊柱管内部の通 常のヘルニアに比べて、位置感覚を取り難いことがあげられます。これは腹背側・内外側の指標となる適当な解剖学的メルクマールがないこと、そして それらの高位 格差が大きいためであります。このような場合にはナビゲーションシステムが有用です。 再手術例 当初 再手術例はその癒着のために、本法の適応から除外されておりました。しかし椎弓の切除範囲を少々拡大することで対応は十分可能であります。癒着の強い症例では、より慎重な操作が必要であります。 腰部脊柱管狭窄症 硬膜と黄靱帯などの周囲組織との癒着、広範な除圧必要範囲、など手術を困難にする要素は多いのでありますが、微少内視鏡で手術は可能であります。患者さん側の利点はMEDと同様でありますので、勧められるべき術式であります。しかし進入側の外側陥凹の除圧の際に関節突起を切除し易いこと、黄靱帯と硬膜の癒着が高度である場合があること、出血のコントロールが困難である場合があることなど、通 常の腰椎椎間板ヘルニアとは様相を大きく異にするので、熟達した術者が行う必要があります。 またナビゲーションシステムが有用で、侵入側と反対の側の黄靱帯を切除する際など、除圧の範囲の確認や記録 特に内外側方向の除圧範囲の確認に有用で、より安全に手術を行うことができます。 |
| 7. 今後の展望 |
| MEDは支持組織としての脊柱の安定性を損なうことが少ない手術方法であります。 一方、従来の手術方法で神経組織の除圧を行うことによる不安定性の増強に対して 予防的に固定術を行わざるを得なかった例がありました。しかし微小内視鏡手術によって、脊柱の安定性をあまり損傷する事無く、神経の除圧が行われるようになってくると、脊椎の固定術を行わずにすむ症例が増えてくることが考えられます。 微小内視鏡手術は、低侵襲である半面、また低侵襲であるが故に、視野が狭く、オリエンテーションがつけにくいという欠点があります。しかし私共でも、外側ヘルニア、脊柱管狭窄症などの手術でナビゲーションシステムを用い、手術の正確度が格段に向上する感触を持っております。患者さんからの要望である低侵襲外科と近年発達をみているナビゲーションシステムを併用することで、より正確で安全な手術が可能となってきております。 本日は微小内視鏡下椎間板切除術に関してお話させて頂きました。 ご清聴 有難うございました。 |