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横須賀 純一 医師 稲波脊椎・関節病院 整形外科 医長
2021年1月20日付の読売新聞に「主な医療機関の腰の病気の治療実績(2019年)」というものが掲載されました。日頃より多くの患者さんにご来院頂き、当グループの岩井整形外科病院、稲波脊椎・関節病院のどちらも手術件数が多い病院として載せて頂くことができ、腰部脊柱管狭窄症の手術件数については岩井整形外科病院は全国2位の759件でした。
この記事には手術の件数だけではなく、「うち椎弓切除術・椎弓形成術」「うち脊椎固定術」と内訳も書いてあります。「椎弓切除術・椎弓形成術」とは背骨の中の椎弓と呼ばれる部分などを取って神経の通り道を広げる手術、「脊椎固定術」とはネジ(スクリュー)を入れる手術になります。
病院によってこの比率には大きな違いがあり、岩井整形外科病院は759件のうち椎弓切除術・椎弓形成術が574件(76%)、脊椎固定術が185件(24%)でしたが、椎弓切除術・椎弓形成術が99%という病院や、脊椎固定術が98%という病院もありました。
同じ腰部脊柱管狭窄症の手術にも関わらずこれだけ差が出るのはどうしてでしょう?
腰部脊柱管狭窄症は簡単に言うと背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなって神経が圧迫され、足が痛くなったりしびれたりする病気です。神経の圧迫が取れれば症状は軽くなるわけで、骨や骨を裏打ちする黄色靭帯と呼ばれるものなどを一部取って神経の通り道を広げる、というのが「椎弓切除術・椎弓形成術」です。神経の圧迫を取るということで「除圧術」とも呼ばれます。

それに対して、「脊椎固定術」は2つ以上の骨(椎体)をネジなどで連結する手術です(下図)。椎弓切除術・椎弓形成術(除圧術)を行った上で固定術を行う場合もあれば、固定術だけ行う場合もあります。手術の方法の違いによってPLIF、TLIF、XLIF、OLIF、FELIF等の名前が付けられています。

固定術を行う理由はいくつかあります。
一つは「すべり症」によって脊柱管狭窄症が起こっている場合です。すべり症とは骨がずれる病気で、これによって神経の通り道が狭くなっている場合には固定術を行うことがあります。特にずれが大きかったり、前に屈んだり体を後ろに反らしたりしたときに背骨同士の角度の変化が大きい場合(「不安定」と言います)には、固定しないと症状が取れないことがあります。


二つ目は「椎間孔狭窄」も伴っている場合です。椎間孔とは、背骨の横にある神経の通り道です。ここが狭くなっている場合にも固定術を行うことがあります。

また、すべり症、椎間孔狭窄症がなくても固定術が行われる場合もあります。腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状は「座っていれば平気だが、歩くと足が痛くなったりしびれたりする」というものです。逆に座って動かなければ、つまり背骨が動かなければ症状は出ません。ネジで背骨を固定し、神経の通り道が狭いところを動かないようにすれば症状が出にくくなります。
除圧術または固定術のどちらがよいかは、症状(特に痛みやしびれの場所)、ずれの大きさ、椎間孔狭窄の程度、患者さんの希望などを総合的に考えて判断することになります。どのような患者さんはどちらの手術が適切かには明確な基準がありませんが、双方のメリット、デメリットを考えると、軽症な人には除圧術、重症な人には固定術、というのが大まかな考え方です。同じような患者さんに対しても医師や病院によって判断が分かれる場合も多いため、冒頭で書いたような手術方法の比率の違いが出てくるのです。
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ネジ(スクリュー)を入れる手術(固定術)と入れない手術(除圧術)②横須賀 純一 医師